MAKER:100万ステップをエラーゼロで解くAIの衝撃
LLMの限界を突破したMAKERシステム。100万ステップのタスクをエラーゼロで解決する「極限分解+マイクロエージェント」アプローチを論文から解説します。
「LLMは推論が苦手」——これは長らくAI研究者の共通認識でした。
実際、複雑なタスクでは数百ステップ進むと必ずどこかでエラーが発生し、プロセス全体が破綻する。ハノイの塔ベンチマークでも、最大数百ステップが限界でした。
しかし2025年11月、この常識を覆す論文が発表されました。100万ステップのタスクをエラーゼロで解決するシステム「MAKER」です。
論文概要
「Solving a Million-Step LLM Task with Zero Errors」 — Meyerson et al., arXiv:2511.09030
著者: Elliot Meyerson, Giuseppe Paolo, Roberto Dailey 他(Cognizant AI Labs)
カテゴリ: 人工知能(cs.AI)、計算言語学(cs.CL)、マルチエージェントシステム(cs.MA)
なぜLLMは長いタスクが苦手なのか?
LLMには持続的なエラー率があります。どんなに優秀なモデルでも、1ステップあたりの微小なエラー確率が存在し、これが累積します。
- 1ステップのエラー率が0.1%でも、1000ステップで約63%失敗
- 100万ステップなら、従来手法では成功確率は事実上ゼロ
- エラーは伝播し、途中で脱線したプロセスは回復不可能
これがLLMベースのエージェントが「組織や社会レベル」のタスクに到達できなかった理由です。
MAKERのアプローチ:極限分解とマイクロエージェント
MAKERが採用した解決策は、発想の転換でした。
1. 極限的なタスク分解(Extreme Decomposition)
巨大なタスクを、極めて小さなサブタスクに分解します。各サブタスクは、専門的なマイクロエージェントが担当。
従来: 1つのLLMが100万ステップを実行
MAKER: 数百万のマイクロエージェントが各1ステップを担当
2. マルチエージェント投票による誤り訂正
各ステップで、複数のエージェントが同じサブタスクを実行し、多数決で出力を決定します。
これにより:
- 単一エージェントのエラーが全体に波及しない
- 各ステップで信頼性の高い出力が保証される
3. 高いモジュール性
分解の結果生まれる高いモジュール性により、ステップごとの誤り訂正が可能に。従来の「繋がったチェーン」から「独立したブロックの積み重ね」へ。
実験結果:100万ステップ、エラーゼロ
論文では、ハノイの塔問題を拡張した大規模ベンチマークで検証。
- 100万ステップ以上のタスクを完全解決
- 原理的には、さらに大規模なタスクにもスケール可能
- 従来手法の数百ステップ限界を4桁以上突破
MDAP:新しいパラダイム
この研究が示唆するのは、LLMの継続的改善を待つ必要がないということです。
「大規模分解エージェンティックプロセス(MDAP)は、組織や社会レベルの問題を効率的に解決する道を開く可能性がある」
MDAPs(Massively Decomposed Agentic Processes)という新しいパラダイムは:
- 現行LLMの能力を最大限活用
- 単一エージェントの限界をアーキテクチャで克服
- 人間社会の分業システムに類似した構造を採用
私たちへの示唆
この研究は、AIエージェント開発の方向性に重要な示唆を与えます。
- モデル改善だけが答えではない: アーキテクチャの革新で限界を突破可能
- 分解と協調がカギ: 複雑なタスクは「分けて、協力して、検証する」
- エラー許容設計の重要性: 「エラーを出さない」より「エラーから回復する」
AIエージェント時代の設計思想として、極めて重要な知見です。
まとめ
MAKERは、LLMの「持続的エラー率」という本質的な限界に対し、分解+マイクロエージェント+多数決という美しい解決策を提示しました。
この論文が示すのは、スケーラブルなAIシステムの未来図です。単一の超知能ではなく、無数の専門エージェントが協調する——そんな社会的AIの萌芽がここにあります。