脱・GroupChat依存。AutoGenワークフローパターン「使い分け」の鉄則
AutoGenを試したけどエージェントが暴走した経験はありませんか?「とりあえずGroup Chat」からの卒業。Sequential、Nested Chatを使いこなし、制御可能なマルチエージェントシステムを構築する方法を徹底解説。
その「会議」、本当に必要ですか?
AutoGenを触り始めたエンジニアが、必ず一度は陥る「沼」があります。
公式ドキュメントにある Group Chat のデモを動かして感動し、そのまま実務に適用しようとしてしまう沼です。
そして、多くの人がこう頭を抱えることになります。
「なぜ、エージェント同士でお世辞を言い合っているんだ……?」
Coderエージェントがコードを書き、Reviewerエージェントが「素晴らしいですね!」と褒め、UserProxyが「次はどうしますか?」と尋ねる。終わらない会話、進まないタスク。その裏で、あなたのOpenAI APIのトークンは猛烈な勢いで溶けていきます。
エージェントは「放任」するな、「設計」せよ
なぜ失敗するのでしょうか?
それは、直線的な工程で済むタスクまで、全員参加の「定例会議(Group Chat)」 で解決しようとしているからです。
人間社会で考えてみてください。「仕様書通りにコードを書く」というタスクのために、PM・エンジニア・レビュアー・デザイナーを会議室に集め、雑談交じりのブレインストーミングをさせますか?
しませんよね。必要なのは会議ではなく、「前工程が終わったら次へ渡す」という確実なベルトコンベア(パイプライン) です。
[!IMPORTANT] 賢いエンジニアは、エージェントに『会議(Group Chat)』をさせない。『パイプライン(Sequential)』を作れ。
AutoGen v0.4:2025年の最新動向
2025年1月、AutoGenは v0.4 という大規模アップデートをリリースしました。
| 項目 | v0.3以前 | v0.4 |
|---|---|---|
| アーキテクチャ | 同期的 | 非同期・イベント駆動 |
| スケーラビリティ | 限定的 | 分散エージェント対応 |
| デバッグ | 困難 | 大幅改善 |
| UI | なし | AutoGen Studio(ローコードUI) |
これにより、プロダクション環境での利用が現実的になりました。しかし、ワークフローパターンの本質は変わりません。
4つのワークフローパターン
graph LR
subgraph "制御しやすい"
A[Two-Agent Chat] --> B[Sequential Chat]
end
subgraph "制御が難しい"
C[Nested Chat] --> D[Group Chat]
end
B --> C
1. Two-Agent Chat:基本にして王道の「1on1」
最もシンプル、かつ最も堅牢なパターンです。
UserProxy(依頼者)とAssistant(AI)の二者間だけで対話を行います。
アナロジー:卓球(Ping-Pong)
ラリーが続く卓球です。相手が打ち返してくる場所は一つしかありません。余計なノイズが入らないため、単純なコード生成や、壁打ち相手としてのブレインストーミングに最適です。
graph LR
User((UserProxy)) <-->|対話・修正| Agent[Assistant Agent]
style User fill:#1a1a2e,stroke:#c5a059,stroke-width:2px
style Agent fill:#1a1a2e,stroke:#00b894,stroke-width:2px
[!TIP] 使い所の鉄則: 複雑なワークフローを組む前には、まずこのパターンでプロンプト(System Message)を磨き上げてください。1対1で満足に動かないエージェントは、チームに入れても動きません。
2. Sequential Chat:確実性を生む「アセンブリライン」
複数のエージェントを 「定義された順序」 で繋ぎます。
AutoGenの initiate_chats 機能を使うことで、「Aさんの成果物をBさんに渡し、Bさんの成果物をCさんに渡す」というバケツリレーを実現します。
アナロジー:工場の製造ライン
工場のベルトコンベアです。「溶接」が終わる前に「塗装」が始まることはありません。前の工程の出力(Output)が、次の工程の入力(Context)として確実に引き継がれます。
graph TD
subgraph "Sequential Chat"
Step1[Step 1: 企画] -->|企画書| Step2[Step 2: 執筆]
Step2 -->|原稿| Step3[Step 3: 校正]
end
subgraph "Agents"
AgentA[Planner] --> AgentB[Writer]
AgentB --> AgentC[Editor]
end
[!TIP] 要約(Summary)の活用: 延々と会話履歴を引き継ぐとコンテキストウィンドウが溢れます。Sequential Chatでは、前のエージェントの出力を「要約」して次に渡す設定が可能です。これがトークン節約の鍵です。
| 項目 | Group Chat | Sequential Chat |
|---|---|---|
| 制御性 | 低い(非決定論的) | 高い(決定論的) |
| コスト | 高い | 低い |
| デバッグ | 困難 | 容易 |
| 向いているタスク | ブレスト | 定型業務 |
3. Group Chat:諸刃の剣「ブレインストーミング」
多くのユーザーが最初に飛びつき、そして火傷するパターンです。
GroupChatManager という司会者が中心となり、登録された複数のエージェントの中から「次に誰が話すべきか」を動的に決定します。
アナロジー:飲み会・ブレインストーミング
自由度は最高ですが、制御不能になりがちです。「誰かいい案ない?」と投げかけた時、全員が沈黙したり、逆にお喋りな人が独演会を始めたりします。
graph TD
Manager{Group Manager}
User((User)) <--> Manager
Manager <--> Coder[Coder]
Manager <--> Reviewer[Reviewer]
Manager <--> Designer[Designer]
[!WARNING] 無限ループに注意: Group Chatは非決定論的(Non-deterministic)です。同じ入力でも毎回結果が変わる可能性があります。「創造的なアイデア出し」には向いていますが、「定型業務」にはアンチパターンであると認識してください。
4. Nested Chat:最強の隠蔽「下請け構造」
実務で最も強力なのがこのパターンです。
あるエージェント(親)がメッセージを受け取ったとき、その処理を 内部の別のチャットルーム(子) に丸投げします。ユーザーからは内部のやり取りは見えません。
アナロジー:ゼネコンと下請け(再委託)
発注者(User)は「家を建てて」と現場監督(Manager)に言うだけです。現場監督の裏側では、大工、配管工、電気技師が激論を交わしていますが、発注者は完成品だけを受け取ります。
sequenceDiagram
participant U as User
participant W as Writer (親)
participant C as Critic (子)
participant E as Editor (子)
U->>W: 記事を書いて
Note over W: Trigger: Nested Chat開始
rect rgb(30, 41, 59)
W->>C: これでどう?(批評依頼)
C-->>W: ここ直して
W->>E: 修正して
E-->>W: 修正完了
end
W->>U: 完成しました (最終版のみ)
このパターンの利点は 「カプセル化」 です。複雑な推論プロセスをエージェント内部に隠蔽できるため、メインの会話フローが汚れません。
比較まとめ:どう使い分けるか?
| パターン | キーワード | 最適なユースケース | 制御 | コスト |
|---|---|---|---|---|
| Two-Agent | 1on1 | 単純タスク、デバッグ、プロンプト調整 | ★★★★★ | 低 |
| Sequential | パイプライン | 記事作成、レポート生成、順序が決まった業務 | ★★★★☆ | 中 |
| Group Chat | 会議 | アイデア出し、複雑な相互依存がある課題解決 | ★☆☆☆☆ | 高 |
| Nested Chat | カプセル化 | 高品質なコード生成、ReAct的な思考 | ★★★★☆ | 中〜高 |
結論:運任せの「会議」を捨て、確実な「設計」へ
AutoGenは魔法のようなツールですが、それは「何もしなくても上手くいく」という意味ではありません。
むしろ、「開発者がどれだけ業務フローを解像度高く理解しているか」 が残酷なほど問われるフレームワークです。
Next Action: あなたが今すぐやるべきこと
もし、あなたの手元のコードに、とりあえず突っ込んだだけの GroupChat があるなら、今すぐリファクタリングの対象にしてください。
- 分解する: そのタスクは本当に「全員の合議」が必要ですか?
- 直列化する: SequentialChat に置き換えられませんか?
- 隠蔽する: 複雑な思考は NestedChat の中に閉じ込められませんか?
エージェントの出力を「祈る(Pray)」のではなく、意図通りに「設計(Design)」する。それが、「AIお遊び」から「AIプロダクト」へ脱皮するための唯一の道です。